実績 – コクヨS&T株式会社

古い組織風土を変えていくために一発で意識をかえる言葉が必要だと考えていたのです。

コクヨS&Tは事業環境を取り巻く大きな変化の中、それまでの古い体質を改め、組織活性化に取り組んでいます。その陣頭指揮に当たっているのが代表取締役社長の森川卓也さんです。森川さんは人財育成を担当する「HR開発室」を新設すると同時に、外部の「場活師」を巻き込み、“三位一体”となって風土革新を進めることを決断しました。そして、強い問題意識を持ちながら、スピード感を持って数々の施策を推進していきます。

コクヨS&Tがいかにして組織を活性化させ、風土革新を実現させていくことができたのか、その軌跡をご紹介しましょう。

スピード感のある経営を目指す

森川卓也さん

コクヨS&Tは、2004年にコクヨが分社・持株会社に移行した際に、コクヨの代名詞とも言える紙製品・文房具の製造・販売部門を引き継いで設立された会社です。

そして2005年に森川さんが社長に就任したとき、コクヨの黒田社長から変化のスピードアップを要求されます。事業を取り巻く環境変化が非常に激しく、その変化に対応していくことが最重要課題だったからです。

「今では、企業何年説という言葉すら危うくなっています。事実、1年前に作られた会社が半年後に潰れたり、一時大きく伸びた会社でも3年、5年ともたないケースもたくさんあります。スピード感を持って対応していかないと、環境変化に気づかず“ゆでガエル”の状態に陥ってしまいかねません。そのような意味から言えば、会社とはまさに変化対応業と言えます」(森川さん、以下同じ)

国内はもちろん、グローバルに展開していく中でその変化がより激しく、速くなっている現在、いかにスピード対応していくかがコクヨS&Tに突き付けられた大きな経営課題でした。

現状を認識し、さまざまな施策を打つ必要があると実感

森川卓也さん

環境変化に対応していくために、戦略や組織を変えることを模索する経営者が多い中、森川さんは違っていました。そもそも、戦略や組織を変えることが目的ではないからです。

まず必要なのは、正しい現状認識と、現在進めていることの検証です。そして、組織というのは戦略を実現するための一つの手段であることをよく知っていました。

だからこそ、森川さんは正しい現状認識を行い、その結果を全員で共有することが不可欠だと判断しました。その際、社内の声はもちろん、社外の声も拾うことが需要だと考え実施したのが「360度評価」です。すると、組織風土に関するさまざまな問題が浮き彫りとなってきました。コクヨS&Tに対する評価を見ると、以下のような厳しい内容が記されていました。

・生真面目すぎる(柔軟な思考ができない)
・くれない族(他責:「~してくれない」と他人のせいにする)
・被害者意識が強い(ちゃんとやっているのに、分かってくれない)
・コミュニケーションが不足している、下手である
・失うことへの恐怖感が強すぎる(前例主義に陥っている)
・瀬戸際感覚・危機感が欠如している(変革への意識が少ない) など

その他にも、「7つのS分析」などを行った結果、ビジョン、組織構造、経営メンバー、組織風土について現状認識していく中、森川さんは組織を活性化し、組織風土を革新していくことが何よりも重要なテーマだと判断しました。そのために、あらゆる手を使ってさまざまな施策を打つ必要があることを実感します。

そんな時に出会ったのが、「場活師」泉一也です。

信頼する元部下から「場活師」泉を紹介される

泉一也

「非常に信頼を置いていた部下から、泉さんの研修を受けて非常に感激したので、ぜひ私に引き合わせたいと言うのです。彼がそこまで言うのならと一度、会うことにしました。

実際に会ってみると、直感でピンときました。この人が組織の中に入ってくれたら、活性化のスピードが間違いなく加速する、骨太なキャラクターで私たちの問題点と改善すべき点をストレートに指摘してくれるはずだと。何より、“ガチンコ”勝負してくれるところがとても気に入りました」

例えば、泉からからもらった言葉『それはちょうどいい』。これが大きく琴線に触れたと森川さんは言います。これまでの古い組織風土を変えていくために、キャッチフレーズとして一発で意識を変えることのできる言葉が必要不可欠だと考えていたからです。

コクヨS&Tが掲げる経営方針は2つあります。「人にとっての経営」と「チャンス経営」です。「人にとっての経営」とは、社員を会社経営の手段ではなく、会社経営の目的と捉えることです。社員のやりがいを育み、追求し続ける会社を目指そうというものです。そして「チャンス経営」は、変化やリスクを好機(チャンス)と捉え、それに柔軟に対応していこうというものです。

「それはちょうどいい」

泉一也

そのことを話した時に、泉さんが『それはちょうどいい』と言う言葉を私にしてくれたのです。環境変化が著しい中、予想のつかない状況が続くのが事業であり、それは日々の仕事においてもそうです。

それならば、それらをそのまま受け入れて、飲み込むことが大切です。他責にしないで、『それはちょうどいい』と解釈できる方が、非常にアグレッシブでありポジティブです。

前向きの捉え方をすれば、ピンチをチャンスと考えることができます。よくチャンス思考が大切だと言いますが、どちらかと言えば手に垢が付いた言葉で、キャッチフレーズとしてあまり良いと思えませんでした。それを『それはちょうどいい』と言われると非常に腹落ちした感じがして、私自身、本当に『それはちょうどいい』という風に飲み込むことができたのです。

こうした泉さんが発するいろいろな言葉に、本質を突くセンスを強く感じました。この人となら信頼関係に基づくパートナーとして、一緒にやっていけると確信しました」

ちなみに、「場活」という言葉を創作したのは森川さんです。泉を「場活」を担うファシリテーターと称して「場活師」と呼んでおり、泉自身も森川さんから多くの言葉を享受しています。

専門部署として「HR開発室」を新設。
経営陣&人材育成担当&外部の「場活師」の”三位一体”の物語が始まる

森川卓也さんと泉一也

ところで、コクヨS&Tの経営方針である「人にとっての経営」とは、「会社は社員のインキュベーターになる」ということ。それを経営者として、森川さんは社員に約束したわけです。

スピード対応が求められる中にあって、社員のやりがいを育み、追求し続ける会社となるために、森川さんは人財育成を行う専門の部署が必要不可欠であると考えました。

そこで、「人にとっての経営」を実現するために作ったのが「HR開発室」(現在のHR開発部)です。「HR開発室」は社長である森川さん直轄の組織となることから、本来ならば本社のある大阪に置くべきところ。それを、「人にとっての経営をするなら、常に人と向き合わなくてはいけない」ということで、大阪と東京にそれぞれ専任の担当者を配置することになりました。

ここから、社長である森川さんをはじめとする「経営陣」と人財育成を担当する「HR開発室」、そして外部の「場活師」である泉との“三位一体”の物語が始まることになります。

「リーダー合宿」で「意識を変える気づき」の場を作る

泉一也

前述した現状認識で確認された問題点の中で、上司と部下など縦のコミュニケーションの課題が強く指摘されていました。さらに、メンバー同士の学び合いやセクショナリズムなど、組織風土上の問題点も見えてきました。

これらを払拭し、新しい組織風土を形成し、組織を活性化していくためには、その土台となる「良い風土」がなくてはなりません。

そこで考えたのが「個活」×「場活」=「会活」という方程式です。「個活」は個人の活性化、「場活」は場の活性化。この2つが掛け合わさることにより、会社が活性化(会活)するというものです。

このことを実現するために必要なことは、まず組織を先導する立場にあるリーダーへの意識変革でした。

そこで最初に行った施策が「リーダー合宿」です。リーダー層に対して組織活性化の意識を醸成し、その方法を伝えることから始めました。2006年から年に1回、4月に行う「リーダー合宿」では徹底的に議論を行っています。

最初の「リーダー合宿」には森川さん以下、全役員、全組織長(部長クラス)が3日間の日程で、ひざ詰めで話し合いました。その際、各組織長が数人の課長クラスの人たちを連れてくるので、参加者総勢100人に及びます。

ところが当初は皆が自己限定し、狭い世界の中に入ってしまい、なかなか本音を出せない雰囲気がありました。それを「場活師」である泉が皆の気持ちを解きほぐしながら、気づきを促していきます。このような泉の仕掛けの中で森川さんは時には叱責しながら、リーダーたちに自覚を持ってもらう言葉を問い掛けていきました。

森川卓也さん

「現状認識を見ると、私たちは『くれない族』という評価をされていますが、これは業績が上がらない、スピードが遅いのは○○のせいという他責の話です。

上司部下の関係でいくと、上司は部下の行動が遅いから、部下は上司の意思決定が遅いからと責任逃れを言ってみたり、あるいは経営環境がどうだとか、結局のところ、他人のせいにする空気感が強くありました。だから私は、他責は絶対に許さないということをはっきり宣言しました」

「他の例でいうと、『生真面目過ぎる』があります。コクヨS&Tはコクヨ100年の歴史を背負っている発祥の商品の組織なので、先輩たちが作り上げてきたものをきちっと引き継いでいかなくてはいけません。これはこれで重要です。

そうした価値観は引き継いでいかなければなりませんが、仕事のやり方とか、出す価値というのはその時々で変えていかないと、環境変化に対応できなくなってしまいます。真面目であることはいいのですが、生真面目過ぎて『過去はこうだから』『過去はこうやってきたから』、だから『今、こうやってます』『これからもこうやります』という空気がその頃は支配的でした。それはあり得ないでしょうということを言いました」

「場活」施策で心に火が点いた人たちが、社内活性化のイベントや仕組みを自律的に提案、実施し始めた

森川卓也さん

「リーダー合宿」の次に行ったのが「YOIKOMI倶楽部」です。ここでは、次の現場リーダー、若手リーダーを育成しようということを考えました。コミュニケーションの活発な組織にはキーパーソンが存在します。

「YOIKOMI倶楽部」は、そうした人を育てようという取り組みです。重要なのは、自由に楽しむことのできるメンバーを増やしていくこと。「場」の空気を変えていけるメンバーの育成です。

「YOIKOMI倶楽部」は良いコミュニケーションの略で、具体的には自薦・他薦を問わず各部門からキーパーソンを集め、半年間、泉の指導の下で6回に渡る研修を行いました。ただ研修と言っても、講義形式は最初の1回だけで、後は多彩なゲストを囲んで話をしたり、メンバー同士で美術館に出かけたり、コミュニケーション活性化をテーマにした歌やロゴマークを考えたりと、皆が体感するユニークな内容となっています。研修というよりも、コミュニケーション活性化をテーマとしたクラブ活動のようなものと言えます。

「組織風土を変えていくためには、自律型組織にしていくことが重要です。これは、自主とか自由な雰囲気がないとできません。「リーダー合宿」の後は、「YOIKOMI倶楽部」のような自由な状態、自主性が持ちやすい状態の場を作ることにより、できるだけその場をたくさん仕掛ける「場活」を意識しました」

泉一也

このような「場活」の流れから、現場の若手リーダー育成の「YOIKOMI倶楽部」、年配社員を活性化する「MBE養成研修」、そして「セカンドリーダー合宿」など、「場活」の施策を次々と打っていくことになりました。これが、組織のメンバーたちに大きな影響を与えていきます。

何と、驚くべきことに、研修が終わった後もメンバーは活性化の「核」となり、他の社員も巻き込んでさまざまな活動を展開しているのです。活性化の極意を学び、心に火が点いた人たちが、社内活性化のイベントや仕組みを自律的に提案し、実施し始めたというわけです。
「場活」効果、恐るべしです。

例えば、「ファミリーデー」。仕事を支える家族や友人に感謝の気持ちを伝えようという主旨で始まった文化祭のようなイベントです。オフィスに家族や友人を招待して、さまざまな催しを行うわけですが、初年度は総務などのスタッフ部門の中堅社員が中心となって実施したのですが、それが徐々に参加希望者が拡大していき、現在では若手社員が中心となって自律的に企画・運営を行っています。

この他にも、勤務時間外にコミュニケーション活性化を行うグループに金銭面の活動を支援する「YOIKOMI支援」や「勉強会」など、ともに楽しみ・励まし合いながら行う社内活性化のイベント・仕組みが次々と実施されるようになりました。

森川卓也さんと泉一也

「リーダー合宿」にしても、「自分たちで非日常に切り替えるためのテーマは何がいい?」といったことも含めて、皆が積極的に参加するようになりました。

今では、「今年は何が仕掛けられているのか?」など、企画・運営する側の人たちも含めて、「リーダー合宿」そのものを全員が楽しみにしています。

このような「場活」効果も、“三位一体”で取り組んできたからこそ得られたものです。

「言うまでもなく、組織の活性化は終わりなき道です。「場活師」など社外の力を借りながらも、自分たちの組織に根づくように組織を活性化していくこと。そして、常に先を見て仕掛けていくことが、経営者にとって大きな役割と言えます」